うーちゃんと誕生会



「それにしても」
「うん?どーした、かりん?」

 今は秋の日の昼休み。聖遼学園の学食内で、かりんとエリスはランチをともにしていた。

「彼女達って何者なんでしょう?」
「誰の事を言ってんダ? 主語はちゃんと…って、ああ」

 エリスは、かりんが学食内を見回した事で、『彼女達』が誰なのかを理解する。
 ここのところ、学食の利用者が激増しており、今も人であふれていた。中には席が取れず立ったままメシをかきこんでいる、哀れな生徒までいる始末だった。それならばまだ良いほうで、学食内に入れずに泣く泣く購買パンのお世話になる生徒までいるほどだった。

 学食の利用率が増えたわけではない。増えたのは分母。すなわち全校生徒の数だった。
 始まりは一学期の後半ごろ。突如、聖遼学園に転入生が現れたのだ。始めは「今の時期、珍しいな」と思われる程度だったが、じきにそうも言ってられなくなった。転入生は一人ではなく、毎週いや毎日のように現れ、気がつけば二学期が始まる頃には一人や二人ではなく、中等部と高等部あわせて数十人以上となった。もはや「珍しい」ではなく「なんぞこれ」なレベルであった。
 しかもその転入生軍団には、例外なく一つの共通点があったのだ。

「『艦娘』の事ダナ?」

 彼女達は一見人間のようだが『艦娘』と呼ばれる種族だと言う事だ。外見上は人間の女性と、なんら変わりはない。だが身体能力は、個体差はあれど総じて普通の人間を上回っていた。そして『艤装』と呼ばれる兵装をまとうことで、極めて高い戦闘能力を発揮した。

「ええ。今のところ『この世界』への悪影響はないみたいだけど、さすがに気にしないわけには行かなくて」
「まあ、そりゃそーだよナ。ここだけの話、どうも敵対組織のヤツらも騒いでるみたいだしな。でも、なんでアタシにそんな事を聞くんだ」
 エリスはデザートのプリンを、ほおばりながら聞き返す。
「それは、エリス。あなたの得意分野だと思ったから」
「納得ダ。モチはモチ屋ってわけか」

 エリスは学園の金工室内の隠し部屋に自分の工房を持つ武器商人でもあり、扱う品物は刀剣類は言うに及ばず、銃火器類や爆弾。さらには妖精である事を活かし、魔力を必要とするマジックアイテムもその範疇としていた。

「ええ、彼女たちは自分たちのことを、『艦』の生まれ変わりと言ってる。あなたから見てどう思う?」
「魂やら転生やらは、オマエらヴァルキリーや死神族のほうが詳しいとは思うんだがナ。ま、アタシ個人的な意見を言うなら正解ダロナ」
「どうして?」
「アイツらの何人かと話してみたんだが、最期の状況やらトラウマやらが、元の艦歴と一致してたんだ。あと、艤装とやらも見たところ、艦の構造や装備がモチーフになってる」
「なるほど」
「それに日本人ってのは、九十九神の例があるように、生き物じゃないヤツまでまるで同族かのように入れ込むからな。結果、魂みたいなものが出来る場合もある。で、ここは本来、精神や魂の世界。実体の無いやつも、ここなら存在できるってトコだな」
 かりんは改めて食堂内を見回す。ここにも艦娘はいるのだが、やはりただの人間にしか見えない。エリスの話を聞いた今でも、今ひとつ実感しにくい。
「んー、アタシもこういう種族ははじめてだが『ここ』ならあり得るダロ?つーか、かりん。ぶっちゃけオマエも『近い』存在ダロ?」
「…そうですね」

 二人の座るテーブルは、にぎやかな食堂の空気とはまるで反対のしんみりした空気に包まれた。が、それは一瞬。

「こりゃ〜!! 待ちなひゃい〜〜!!」
「やっだぴょ〜ん。悔しかったら、追いついてみろぴょん」

「「?」」

 食堂と校舎をつなぐ廊下から近づいてくる声に、二人とも互いに顔を見合わせた。片方の声の主は、二人の『弟子』とも言える中等部の後輩、美角唯芽のものだった。だが、なぜかろれつが回ってない。何が起きたかと考える間もなく『もう片方』が食堂内に飛び込んできた。
 聖遼学園の制服とは違う濃紺のセーラー服を着た女子が、それと対照的な紅い色をした長い髪を、後ろになびかせながら駆け込んできた。突然の乱入に驚くほかの生徒達の、ほとんど無い隙間をうまくかいくぐっている。
 一方、唯芽はというと。
「すびばせ〜ん、ちょっと道をあけてくだひゃ〜い!あいたー!」
 どうやら他の生徒に道を空けるよう頼んでいるようだが、この人口密度では無理な話である。それどころか、自分から体をぶつけてしまってる始末らしい。これでは、彼女の追っている女子生徒との間は開くばかりであった。

「ナニやってんダ?アイツら?」
「さあ?だけど、あの子も『艦娘』のようですね。あの身のこなしは、只者じゃない」

 紅い髪の女子は、まるで小動物のように、軽やかに跳ねるような動きで、一度もぶつかることなく、学食の入り口の反対側の、グラウンドへ通じる出口まで駆け抜けた。
「待ってくらひゃいへば〜!どうひてあんなころするんれすか〜!?」
 ようやく、唯芽が食堂に入ってきた。派手に人ごみにもまれてしまったのか、髪や制服が乱れていた。その無残な姿を見た紅い髪の少女は、自分の両手を招き猫のように丸めて、頭の上に持ってくる、つまりウサギの耳おイメージしたポーズで唯芽をあざ笑う。

「ふっふっふ〜。うーちゃん特製の、抹茶色シュークリームの味はいかがだったかぴょン?」
「抹茶って、あれ、わさびじゃないれふか〜!ヒドイです〜!!」

「「……納得」ダゾ」

 事情をあっさりと理解した、かりんとエリスであった。唯芽の呂律が回らないのは当然である。むしろそれだけですんでいるのなら、まだマシな方かもしれない。さすがはナマハゲというところだろうか。

「だまされる方が、悪いんだっぴょ〜ん。それじゃ、また会おうだっぴょ〜ん!」
「あっ? 待ってくらひゃ〜い!」
 人ごみに阻まれて、まともに身動きの取れない唯芽を尻目に『う〜ちゃん』と名乗った少女は、グラウンドへと走り去っていくのだった。

 後に残されたのは、人の波に押されて、再び学食の外へと押し流されていく唯芽と、うーちゃんが去った方へと視線を送る、かりんとエリス。それとその他生徒たちである。

「…あれって本当に、艦の生まれ変わりなんでしょうか?」
「…アタシもちょっと自信がなくなるナ」

          *

「ふっふっふ〜。ここまでくれば大丈夫ぴょん!」
 グラウンドを突っ切ったう〜ちゃんは、食堂の方から唯芽が追って来ないのを確かめて、勝利宣言をする。そして中庭から校舎に戻ろうと、身体ごと振り返った瞬間だった。

「何が……大丈夫なの?」
「ぴょん!?」

 いきなり目の前に立っていた同じデザインをした制服を着た、だがうーちゃんと対照的に紫色のショートヘアで伏目がちな女子に声をかけられた。突然のことにう〜ちちゃんはまさにウサギのごとく跳び上がってしまう。
「って、弥生じゃないかぴょん!驚かさないで欲しいぴょん!」
「……」
 弥生と呼ばれた少女は、ただうーちゃんを静か見つめるだけであった。
「もしかして、怒ってるぴょん?」
「怒ってない。怒ってなんか、ない。だけど悲しいかも」
「ぴょん?」
「ちゃんと謝ってきて。美角さんに」
「え〜。なんでそんなことしなきゃならないんぴょん? イタズラはだまされた方が悪いんだぴょん」

「……」

 目をそらして口を尖らせるう〜ちゃんを、弥生はまったく視線を逸らさないまま、見つめ続ける。
「え〜と…。やっぱり怒ってるぴょん?」
「だから怒ってない。今のところ、だけど」
「う〜……」
 弥生の口調はさっきから変わらない。はたから見れば不機嫌にも聞こえるかもしれないが、それが彼女のいつも喋り方だと言うことを、う〜ちゃんは良く知っている。それよりも、目つきがさっきから少しずつ細くなっていく方が、う〜ちゃんには怖かった。

「分かったっぴょん、謝るぴょん。だからその目で見るのはやめるぴょん!」
「本当?」
「うっそぴょ〜ん」

「……」

「冗談だぴょん!いつものクセで言ってみただけだぴょん!だからはその目はカンベンしてー!」
「……分かった。じゃあ一緒に行きましょう」
 ようやく弥生の視線が緩むのだった。
「って、弥生もかぴょん?」
「うん、だって卯月だけだと不安だから」
「信用ゼロだぴょん…。う〜ちゃん、悲しいぴょん」

「……」

「人を『どの口が言うか』って目で見ないでぴょん!口で言われるより、胸に刺さるぴょん!」
「うん。だから行きましょう、さあ」
「あ、待つぴょん、待って、手が痛いから。やっぱ怒ってない?!」
「……怒ってない」
 かくしてう〜ちゃんこと卯月は、弥生に手を引かれて、唯芽に謝るために校舎へと連行されるのであった。

          *

「まったく、どこに行ったんだぴょん〜」
「うん、いないね」

 卯月と弥生はあれから昼休み中、中等部の校舎を回ったが、唯芽を見つけることは出来なかった。そうこうしているうちに、次の授業までもう時間が無くなっていた。

「これはもう謝るのはナシ!ってのは」
「……」
「ダメぴょんね。分かってるぴょん。おとなしく教室で待つぴょん」
「うん、それが良いと思う」

 二人は教室へと足を向けた。そして廊下の角を曲がって、彼女達の教室である2年A組が視界に入ったところで、
「むむ?あれはもしかして?」
「……うん、美角さんだ」
「おや?でもあの、チャラ男っぽいのは誰ぴょん?」

 廊下の反対側から唯芽が歩いてくるのが見えた。だが、一人ではない。茶色がかった色をした髪の男子生徒も一緒だった。背格好から中等部ではなく高等部の生徒に思えた。

「誰なんだろう…。風紀委員の先輩?」
「う〜ん、でもどっちかいうと規則を守るんじゃなくて破る方に見えるぴょん。アウトローってやつだぴょん」
「……」
「だから『お前が言うな』って目はやめてぴょん」
「でも、知り合いかな。何か話してる」
「むむ?」

 卯月はとっさに、自分のセーラー服の襟の背中に流している部分の端を、両方の手でつかみ上げて耳の高さまで持ち上げた。
「えと…、エリマキトカゲ?」
「ちがうぴょん。セーラー服の本来の使い方ってヤツだぴょん」
「…盗み聞き、よくない。それに私たちのほうが目立つ」
 確かにセーラー服の襟は、元々はそうやって遠くの音を聞きやすくするためであるが、その異様な姿は他の生徒の注目を集めてしまうには充分だった。すでに唯芽たちの話に集中していた卯月には、どこ吹く風であったが。

「……今度の15日……お誕生日」
「……プレゼント……何がいい……」
「わたしは……」

 結局ふたりはその後、二言三言かわしただけではなしは終わったらしく、それぞれ教室へと戻っていった。
「う〜、よく聞こえなかったぴょん。でも、15日が誕生日とか何とか言ってたぴょんね〜」
「15日……10月15日が誕生日……あっ」
「ぴょん? どうかしたぴょん? 弥生」
「……ううん、なんでもない」
「? なら良いぴょん?」
 弥生の様子が気になった卯月だったが、本人がそういうならスルーすることにした。


「でも、これは良い事を聞いたぴょん?どっちの誕生日かは分からないけど、乱入してごーほー的にケーキやお菓子をせしめてやるんだぴょん」
「乱入の時点で合法じゃ無いと思うよ。それに、卯月なにか忘れてない?」
「ぴょん? 何のことだぴょん?」
「……別に良い。それより」
 弥生の言葉にかぶさるようにして、予鈴が鳴り響く。
「教室、戻ろうか」
「う〜、しょうがないぴょん。この話はまた後にするぴょん!」
「……」

 教室へとあわてて駆け込んでいく卯月は、真後ろからついてくる弥生の顔にわずかな笑みが浮かんでいることには気づかなかった。

          *

 そしてその時、10月15日がやってきた。

「ふっふっふ、ついにこの時がきたぴょん」
「本当にやる気なの?卯月」

 卯月はあれから、唯芽のクラスメートを中心に、話を聞き出して、情報を集めていった。結果、10月15日は唯芽の誕生日ではないこと。そしてどうも高等部にいる彼女の『師匠』とやらがいるらしいことを突き止めた。
 今年の10月15日は土曜日。私立の聖遼学園では、休みではないが半日で、午後の授業は無い。そしてその日の放課後、卯月と弥生の二人は、唯芽の自宅の玄関を、近くの物陰から見張っていた。住所はすでに調査済みである。

「モチロンだぴょん!多分、あのチャラ男が『師匠』だぴょん。と言うわけで、いざ抜錨だ!ぴょん」
「そもそも私たち、その『師匠』のこと知らないのだけど。どう言って乗り込む気?」
「とりあえず、唯芽のお友だちってことにしとくぴょん」
「『宿敵』の間違いじゃない?」
「ふっふっふ〜。こんな言葉もあるぴょんよ〜」
「?」
「『強敵』と書いて『とも』と呼ぶ!!…だぴょん」
「……」
「そんな艦内にはびこるGを見るような目で見られても、今のうーちゃんは止められないんだぴょん!お!?」
 卯月は玄関から私服に着替えた唯芽が出て行くのを見た。幸い、今二人が身を隠している道とは、反対方向へと歩いていく。
「それじゃ、尾行開始だぴょ〜ん」
 卯月は気合を入れ、しかし唯芽にばれないよう、少し声を抑えながら、彼女の後をつけ始めた。
「分かった。もう止めない」
 投げやり気味に答えながら、弥生も後に続くのだった。

「でも、卯月?」
「しー、尾行は命がけの危険な任務ぴょん!」
「いや、別に危険無いし」
 そもそも二人と、その70mほど先にいる唯芽が今歩いているのは、通行料の多い国道からはずれた閑静な住宅街である。交通量の面でも治安の面でも、危険などなさそうな場所だった。
「ムードの問題ってヤツだぴょん!で、なんの用だぴょん?」
「ソレ、中身は?」
 弥生は、卯月がずっと右手にぶら下げている紙袋を指差した。
「あー、これはプレゼントぴょん!誕生日に手ぶらで行くのは、おばかさんだぴょん?」
「……。変なところで律儀なのね」
 そもそもイタズラとメシのために、誕生会に乗り込む時点で馬鹿の所業だというツッコミを押さえながら、先を急ぐ弥生であった。


          *

「ほほうー、ここが会場のようだぴょん」
「そうだね」

 あれから唯芽は住宅街を抜けて、海岸の堤防沿いの道を歩いていった。そしてたどりついたのが、海を背にした青い屋根をした二階建ての建物だった。見たところ喫茶店のようである。

「うーん、でもあまり繁盛してるように見えないぴょんね〜」
「いきなりその失礼千万な発言はどうなの。シーズンオフだからだと思うけど」
「うーん、それもそうかぴょん?まあ、ここの店の景気はどうでも良いぴょんね。それじゃ、突撃するぴょ〜ん!」
 言うが早いや、卯月は店のドアを開けて、中へと飛び込んだ。

「ぷっぷくぷ〜。唯芽ちゃんの(自称)お友だちのう〜ちゃって、あれ?」
 店の中は暗かった。卯月はこのときまで気づいてなかったが、窓は全て厚いカーテンで遮られていた。真っ暗とまではいかないが、外の明るさに慣れていたせいで店内の様子がよく分からない。
「え〜と、もしかして間違えちゃった?」
 誰に注意されたわけでもないのに、思わず小声になってっしまう卯月だった。
 そして次の瞬間―

 パパパン!

 突然に店内の照明がともると同時に、クラッカーの音が鳴る。
「ふぇ!?なになになに!?」
 暗さに慣れてきたところにいきなり、明かりをつけられて目がくらみ、状況が飲み込めずパニクりかける卯月。そんな彼女にかけられる追い打ちは―

「誕生日おめでとう!!卯月ちゃん」
「……へ?」
 思考が追いつかず口を開けたままで、卯月は首をまわして店内を見回した。
 まず、彼女が入ってきた玄関から見て右側の大きいテーブルに座っているのは、唯芽、卯月曰くチャラ男の牧村功司。それと小さくてわかりづらい妖精のエリス。あとは卯月の知らない高等部らしき女の子たち。
 そして首を動かして、左側のテーブルに座っていたのは、
「なんでみんながここにいるぴょん!?」
 見た目は中学生くらいの女の子がたくさんいた。その数は9人。彼女達は全て、卯月や弥生と同じく睦月型の艦の魂を持った、いわば姉妹といえる存在だった。
「うん、それは私のせい」
「へ?」
 卯月の後から店内に入ってきた弥生の口から出た発言に、卯月は思わず振り返った。
「いくらなんでも、人の誕生日にまで乱入はちょっとやりすぎ。それにさすがに美角さん困らせすぎてたと思ったから」
 弥生のと突然の告白に、卯月はさらにあんぐりと口を開いていった。
「……チクったのかぴょん?」
「うん、それに卯月、肝心なこと忘れてるみたいだったから」
「何かあったかぴょん?」
「今起きたことを見て、まだ分からない?」
 普段ほとんど動かない弥生の顔の、眉根が少しだけ寄った。
「今日は駆逐艦卯月の進水日、つまりあなたの誕生日でもあるの」
「あ」
 本気で忘れていたらしい卯月の態度に、弥生はただ黙って首を振る。

「そんな感じで『自分の誕生日にナニやってるの』とか思わず美角さんと話していたら」
「ちょうどその話が私の耳に入ったんです」
「ぴょん!?」

 突然自分の後ろから声がして、ラビットのごとく飛び跳ねる卯月。そして間を置かずにクラッカーの第二射が放たれた。

「誕生日おめでとう!かりん(ちゃん)!」

「??誰ぴょん!?」

 後ろを振り返った卯月の目に入ったのは、金髪碧眼の凛とした少女。本日のもう一人の、そして本来の主役。神堂かりん、その人だった。

「あ、卯月ちゃんと話すのはこれが初めてかな。初めまして、私が神堂かりん、高等部の一年生です」
「し、神堂先輩ぴょんね、よろしくだぴょん」
 握手を求めたのか右手を差し出したかりんの手を、思わず握り返してしまう卯月だった。
「それと私の『お師匠様』でもあります!」
「へっ?」
 突然の唯芽の告白に、唯芽へと顔を向けた卯月と、
「唯芽ちゃん…、その呼び方は人前ではやめてくれるかな?」
 バツの悪そうな顔になったかりんだった。

「とにかく、詳しく事情を聞いてみたら、あなたと私の誕生日が同じだったから、合同ではどうかと提案したんです」
「正直、私は反対だったんですけどぉ」
「……それなら、サプライズで卯月を驚かせるのはどうかと提案したの。卯月、いつもいたずらで人を驚かせているから」
 かりんの話に、ジト目をした唯芽と、いつもどおりの無表情の弥生が補足した。
「そして密かに、美角さんと神堂さんの友達と、睦月型のみんなに連絡をして、プランを練ったの。卯月には知られないように、ね」

「…………う〜ちゃん、嵌められたのかぴょん?」
 魂が抜けたようにあ然となってる卯月の疑問に、弥生は無言でうなずいて肯定した。
「………………卯月、してやられたのかぴょん?」
「怒った?卯月」
 固まったままの卯月を心配した弥生が、彼女に近づいた瞬間。

「そんなこと、無いっぴょ〜〜〜ん!」
 卯月は突然、学食でも見せたウサ耳ポーズで大声を上げた
「う〜ちゃんのイタズラ道、その1!イタズラはされる方がマヌケなんだぴょん!だからう〜ちゃんがマヌケだっただけだぴょん!」
「そ、そう」
「それに、みんなう〜ちゃんの誕生日祝ってくれたのは素直にうれしいぴょん。みんなう〜ちゃんをあがめるがよいぴょん!」
「わ〜ん、私があがめるのはお師匠様だけですぅ!」 
「だから唯芽ちゃん、『お師匠様』は…あ、でも」
 抗議の声をあげる唯芽を軽くいなしながら、かりんは卯月の方に向き直った。
「いたずらはほどほどに、ね。 だまされる方が、だます方より悪いことはないんだから」
「……分かりました……だぴょん」
「うん、分かれば良いの。それじゃあ、今日はお互いにパーティを楽しみましょう」

「どうしたの、卯月?」
 かりんに注意されてからまたぼう然としていた卯月に弥生が声をかけると、彼女は表情を変えないまま答えた。
「今さっきの神堂先輩、全然怖くなかった、怖くなかったんだけど」
「だけど?」
「その後ろになんかすごいプレッシャーを感じたんだぴょん。深海棲艦みたいなイヤな感じはしないんだけど……、例えるなら鬼や姫クラスの深海棲艦とやりあってる時のようだった…………ぴょん。とても『やっだぴょ〜ん』なんて言える雰囲気じゃなかった…………ぴょん」
「……」
 弥生が卯月の顔を注意して見ると、顔に汗が浮き出ていた。めずらしく素直に言うことを聞いた理由はこれだったようだ。

「で、でも今はとにかく楽しむんだぴょん!!こういうにぎやかな場面こそ、う〜ちゃんのホームグラウンドなんだぴょん!」
 気合いを入れなおすかのように、大声を上げた卯月に、弥生はほんの少しだけ、顔に笑みを浮かべるのだった。
「じゃあ、今日はは目一杯楽しんで」
「モチロンだぴょん!!でもその前に」
「その前に?」
「今日のもう一人の主役へのご挨拶がまだだったぴょん!」
「……そうね」
「それじゃ!」

 それから卯月はかりんへと向きなおり、親指をグッと立てながら叫んだ。
「ハッピーバースデイだぴょん!神堂先輩!!」
「うん、誕生日おめでとう、卯月ちゃん」
 卯月の祝福に、かりんも穏やかな笑顔で答えるのだった。

          おしまい