〜 黄金の残影 〜
＜ プロローグ ＞
「‥ん？」
誰かに呼ばれた様な気がして、振り返る。 でもそこには、誰もいなかった。
あれ、おかしいな。 確かに、名前を呼ばれた気がしたんだけど‥。 辺りを見回しても、やはり誰もいない。
誰もいない。 確かに、誰もいないんだけど‥‥でも、何かがオカシイ。
誰かに見られている様な気がする‥なんて。 自分が、人の気配が分かる程、スルドイ人間だとは思わないけど。
でも、確かに何かを感じる。 気のせいで済ますには、その感じは強すぎた。
これって‥‥もしかして、幽霊？ 七不思議の取材なんかをしてるから、幽霊の方から寄ってきたのか？
霊の話をしてると、自分が呼ばれた気がして、霊の方から近づいてくるって話を、誰かから聞いたコトがある。
最近の部室では、霊やら心霊現象の話ばかりだし、霊が寄ってきてる‥なんてコトも？
で、でも‥ま、まさか‥ね？ この現代社会に、そんなコトがあるハズ‥と、小さく首を振ると、いきなり背後から何かが肩を叩いた！
「うっ、うわぁ〜〜！！？？」
大声をあげて逃げようとしたが、余りにも驚いた為にそれも果たせず、その場に尻餅をつく。
早く逃げないと‥そう思うのだが、腰でも抜けたのか動けない。 そんな僕を食べようと、その恐ろしい霊は、一歩一歩近づいて来て‥。
「ち、ちょっとぉ。 な、なによ、大声出して。 ‥どうかしたの？」
そう、声をかけた。 ‥聞き慣れた、声。 恐る恐る振り返ってみると、そこにいたのは‥。
「‥‥へ？ あ、あれ？ ‥‥あ、天羽さん？」
「な〜にが、「あ、天羽さん？」‥よ！ 私以外の、誰がいるって言うの？」
そう言って腰に手を当て、少し怒った表情を浮かべているのは、間違いなく天羽碧だった。
そうだよな‥まだ夕方だし。 いくら人気の少ない校舎裏とは言え、こんな時間に幽霊もないか‥。
ホッとすると、また力が抜ける。 「ふぅ‥」と、安堵のため息をついてると、あきれ顔で口を開く、天羽さん。
「本当にどうしたの？ あんな大声あげちゃって‥私まで、ビックリしたじゃない」
「あ、あはは‥‥ま、まあ、色々あったと言うか‥。 ご、ゴメン」
そう言って立ち上がろうとしたが、腰にはまだ力が入らない。 もう一度、誤魔化し笑いを浮かべる。
「全くもう‥しっかりしてよね？ カメラマンの上岡くんが来ないと、取材にもならないじゃない」
「う、うん‥ゴメン」
最近じゃ写真も、ホトンド天羽さんが一人で撮ってるじゃないか‥と思ったが、後がコワイので言わなかった。
「私はこの取材はイヤだって言ってるのに、やりたいって言った上岡くんがそんな調子じゃ、全然終わらないじゃない。
‥って、いつまでしゃがんでるのよ？ 早く行きましょう」
天羽さんは、ブツクサと話を続けながら、一人で歩きだしたが、僕が付いてこないのを見て、首を傾げる。
「あっ、うん。 今行くよ」
そう言って、もう一度立ち上がろうとする。 ‥ダメだ。 大分元に戻ってきたけど、まだまだ立ち上がれるほど、腰に力が入らない。
「あはは‥」と、情けなく笑うと、天羽さんはもう一度ため息。 そして、手を伸ばして口を開いた。
「もう‥ホント、情けないんだから。 ほら。 しっかりしてよ」
差し出された天羽さんの手を見て考える。 ‥コレを掴んだら、男のプライドが‥と、何やら自分の中で戦いが始まる。
‥でも、情けないのはホントのコトかと、３秒で答えが出た。 その手を掴んで立ち上がった。
「よっと‥‥ありがとう」
「どういたしまして。 それじゃ、さっさと行くわよ。 次はこの先の、閉鎖された部室でしょ？」
天羽さんは、そう言って、さっさと歩いて行ってしまう。
足は‥うん、動く。 もう大丈夫だ。 天羽さんの後を追って歩きだそうとしたが、また背後に視線を感じて、振り返って辺りを見回す。
‥でも、やはりそこには誰もいなかった。
‥一体何なんだ？ まさか、ホントに幽霊とか‥。 そう思っていると、遠くから天羽さんの声。
「もう！ 上岡くんがやる気ないのなら、私、もう手伝わないわよ！？」
「ご、ゴメン！ 今行くよ！」
‥取り合えず今は、幽霊よりアッチの方がコワイ‥。 もう一度辺りを見回して、何も無いことを確認してから、走り出した。
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天羽にほっぺたを引っ張られたりしている、上岡の姿を見る。 仲が良いな‥と思う。
おかしい所は無い。 ‥そう、全てが今まで通り。 ‥アレを手にする前と同じ‥。
星原百合は、屋上にいた。 そこから、校舎裏にいる二人を眺めていた。 上岡が感じた気配や視線は、星原の物だった。
星原は思う。 ‥今、少し覗き見た限りでは、おかしい所がない。 でも‥それがおかしい‥‥。
数日前まで感じていた禍々しい気配が、全て消えていた。 あれほど巨大だった気配が、跡形もなく‥だ。
それが良い事か、悪い事なのかの判断がつかず、星原はただ、屋上から二人の姿を眺め続けた。
・・・続く