〜 夢を現実に 〜
＜ プロローグ ＞
神瞳かりんは、２年Ｃ組のドアを開けた。 そして、「失礼します‥」と小声で言ってから、そっと教室の中を眺める。
コッソリと、教室を伺う女生徒‥‥しかも下級生に、教室の中にいた生徒が、何事かと、かりんの方を見る。
放課後に残った数人の生徒。 その中に、かりんが探している人の姿は無かった。
予想していた事だったが、落胆を隠しきれない表情が浮かぶ。 「失礼しました‥」と、小さく言ってから、かりんは教室を出た。
「やはり、ここにもいらっしゃらない‥‥。 牧村さん‥‥一体、どこに行かれたんだろう‥？」
そう呟き、ため息を一つ。 放課後になってから、心当たりのある場所を探し回ったが、探し人‥牧村の姿はどこにもなかった。
トボトボと、次の場所を探しに歩き出すと、横合いから声がかかった。
「‥神瞳さん？ どうしたの、こんな所で‥」
「あっ、瑞希さん‥。 こんにちは」
ペコリと頭を下げるその先にいたのは、春日瑞希。 カバンを持っているので、今帰る所なのだろうか。 かりんに合わせ、瑞希も軽く会釈を返す。
「うん、こんにちは。 ‥私のクラスに、何か用？」
「はい‥実は、牧村さんを探しているんです。 ここ何日か、お姿が見えないので‥」
「うん‥。 牧村君‥昨日と今日は、休んでるみたいだね」
「はい、それは存じています。
ご病気なら、お見舞いに行かなくては‥と、ご自宅の方にも顔を出してみたのですが、いらっしゃらないんです。
一体、今どこで何をしておられるのか‥‥もう、心配で心配で‥‥」
そう言って視線を下げる、かりん。 その右手は、自分の胸を押さえる。 本当に心配で、胸が苦しくなっていたのだ。
そんなかりんの様子を見て、瑞希は安心させるように優しく微笑んだ。
「‥そんなに心配しなくても、大丈夫。 牧村君は、多分無事だよ」
「‥え？ み、瑞希さんは、牧村さんの居場所を、ご存じなのですか！？」
詰め寄るかりんに、瑞希は首を振る。
「‥ううん。 詳しい場所までは分からないけど‥。 でも、無事でいるって事は分かるから‥」
「な、何故ですか！？ なぜ、居場所も分からないのに、無事だと言えるのですか！？」
「そう言われても‥。 別に、命の危険があったり、怪我をする場所にいる訳じゃないから‥そう思うだけで‥」
そう言う瑞希の態度には、別段、普段と変わった所がなかった。
牧村さんが危険な目に遭っているなら、彼女がこうまで落ち着いていられる筈もない。 かりんはそう考えて、安堵のため息をついた。
「そ、そうですか‥‥。 良くは分かりませんが‥‥と、とにかく、ご無事なんですね？ 牧村さんは」
瑞希は小さく頷く。
「‥うん。 瑠羽奈さんに、拉致られただけだから‥。 多分、怪我とかは無いと思う‥」
「そ、そうですか‥瑠羽奈さんに。 それなら、安し‥‥‥‥‥‥ん゛！？」
安心だと途中まで言いかけて、かりんは絶句。
瑞希の言葉が、自分の聞き間違いであろう事を祈りつつ、かりんは口を開いた。
「‥‥あ、あの‥‥‥も、もう一度伺いますが‥‥‥。
‥‥‥‥牧村さんは、今、どこにいらっしゃるのでしょうか？」
「‥だから、詳しい場所までは分からないよ。
ただ、瑠羽奈さんが拉致していったから‥‥今頃、どこかに監禁されてるんじゃないかな？」
「な‥‥な‥‥‥な‥‥‥」
プルプルと震える、かりんの体。 言葉が上手く出てこない。 瑞希は、首を傾げた。
「‥な？」
「‥な‥な‥‥な！！ な゛んです゛って゛ぇ〜〜〜〜！！！！！？？？？」
神瞳かりんのその声は、遙か学校の敷地外にまで響き渡ったそうな。
・・・続く