＜ １０月 １５日 その３ ＞
怪獣から程よく離れていて、でもその動きをすぐに察知できる場所。 そんな条件で選ばれたのは…静乃の家。 神社だった。
ここは高い場所になっているので、見通しが良いのだ。 しかも建物が壊れているので、視界も良好。 怪獣の姿が良く見えた。
取り合えず、境内に四人で座る。 そしてまず、かりんが口を開いた。
「ええと、まずは作戦会議をすべきなのでしょうが……その前に。 どうしても気になるので、先に伺います。
…瑞希さんと静乃さんは、どうしてこの世界に来られたのですか？」
それは、俺にとっても最大の疑問だ。 怪獣のコトよりも、ズット気になる。 『うんうん』と頷き、かりんの質問に同意。
静乃と瑞希は、顔を見合わせ。 そして、小さく笑って説明を始めた。
「えーと…お兄様、覚えてます？ お兄様が寝付く前に、私と春日先輩が、お兄様の手を取っていたの。
あれって実は……なんとか、この世界に来れないかなーと思って、やったコトなんです」
「…うん。 私達、そのタメに夜中の病院に忍び込んだの。
そうしたら、予想通りココに来れた……ってワケ」
「…いや、原理が良く分からないんだけど。
んじゃ、俺の手を握ってると、誰でもコッチに来れるのか？」
「「……さあ？」」と、二人で首を傾げる。 そして、「以前、この世界に来た時もそうだったから。 今回もあるいは…って思っただけだから…」と、瑞希。
どうやら原理に関しては、二人にも分かっていないらしい。 でも…そう言えば、瑠羽奈が言ってたっけ。
『コケの一念、世界も渡る』…とかなんとか。 二人の強い想いがあったからこその、荒業なのかも知れない。
「…まあ、それはもう良いや。 方法とかは、どうせ分からないから良いよ。
それより、二人がココに来た理由は何だよ？ 俺がコッチに来るコトは、二人とも納得してくれたんだろ？」
心からの納得は…もしかしたら、無かったのかも知れない。 でも二人とも、俺を送り出してくれた。
『頑張って』と言ってくれた言葉は、嘘ではないと思う。 もしそれが嘘だとしたら、かなりショックだ。
「ナゼと聞かれると、説明は難しいんですけどぉ…」と、悩む静乃。 中々答えが出ないようなので、代わりに瑞希が口を開いた。
「…私達、瑠羽奈さんに聞きたいコトがあったの。 どうしても、気になるコトがあったから…」
「気になる事…？」 俺が聞くと、瑞希は頷いて言葉を続ける。
「…うん。 この世界の事を…。
本当に…功司君がいないと、この世界が消えちゃうのかを聞きたくて…」
「……えっ？」
かりんが思わず、声を出していた。 皆に注目されて、慌てて首を振る、かりん。
「い、いえ、失礼しました！ …で、ですがそれは、本当の事です。 世界の核とも言える牧村さんがいなくなれば、この世界は消滅します。
世界は消え、全ては牧村さんの中に戻っていく……そう言う意味では、本当の消滅ではありませんが…。
少なくとも、皆さんが想像しているような『消滅』は、避けられません」
「…うん、それも分かってる。 神瞳さんから聞いたモンね。 …それがウソだとは思ってないよ。
だけど……それならオカシクない？
なんで、ホンの数日とは言え……牧村君が元の世界に戻った時に、この世界は消滅しなかったの？」
「そ、それは……あれが、突然の事故だったから…では？
牧村さんが激しく抵抗したので、不完全な帰還になったと聞いています。 …そのせいでは？」
瑞希と静乃は、同時にコクリと頷いた。 そして、静乃が口を開く。
「そう、そこですよ問題は！ かりん先輩、まさにソコなんです！
今回は、事故だったみたいですけどぉ…」
「…うん。 その『事故』を、『故意』に変える方法は無いのかと思って…。
もしかしたら……功司君が元の世界に戻っても、この世界が消えない方法があるんじゃないかって…」
…ナルホド。 二人の話を聞いて、全て納得した。 …と言うか、二人の執念とも言うべき想いを理解した。
つまり二人は、ゼンゼン諦めていなかったんだ。 あの日…最後の別れをしていた、その瞬間ですら。
「…そ、それは、私には分かりません。 まさに、瑠羽奈さんにでも聞かねば分からないでしょう…」
二人の言葉に、かりんが答え、首を振った。 「ああいえ、それはもう良いんです」と、静乃も首を振る。
「もう瑠羽奈さんには聞いてあるんです。 実はココに来る途中、私達、迷っちゃったみたいで。
そうしたら、ため息混じりに瑠羽奈さんが現れて、この世界まで案内してくれたんですよ」
「あ、アイツ、いつの間に……って、まあ、そりゃ良いや。
んで、瑠羽奈は何だって？」
「…結論から言うとね。 それは…可能なんだって。
この世界はまだ未完成だから、今は無理だけど……いずれ、世界が完成した後なら…。 この世界は、牧村君から独立するらしいの」
「…まあ、それがどう言う意味かは、良く分かってないけど…」と、申し訳無さそうな瑞希。 …いや、心配イラナイぞ。 俺にもサッパリだから。
「まあ、要するにですね。 今は赤ん坊のこの世界も、そのうち成人するらしいんですよぉ。
赤ん坊じゃ、親がいないと死んじゃいますけどぉ…。 でも、一人前になった後なら、もうお兄様がいなくても大丈夫なんだそうです！」
「やりましたね！」 「…うん」 と、ハイタッチする、瑞希と静乃。
そんな二人のテンションに付いていけない俺とかりんが、顔を見合わせる。 頭を掻いて言った。
「…ま、まあ、何となくは分かったけど。
んじゃその、世界が成人するのには、どんくらいかかるんだよ？」
「ああ、はい。 それは、瑠羽奈さんにも分からないそうですよ。
一週間後になるのか、一ヶ月後になるのか…。 一年か十年か、ソコはお兄様の頑張り次第だそーですっ」
「だから、頑張ってクダサイっ！」と、静乃がガッツポーズ。
「…そ、そりゃまあ、世界が独立するのは良いぜ。 今のままじゃ、俺が事故で死んじまった時に困るしな。
でも…悪いな、二人とも。 この世界が消えなかったとしても、俺は……」
俺がこの世界を選んだのは、世界を守る為だけじゃない。 むしろ俺が選んだのは…。
…それを口にする前に、瑞希が人差し指で俺の口を塞いだ。 そして、優しく微笑んで口を開く。
「…うん、分かってるよ。 功司君がこの世界を選んだ、本当の理由…。
でもね…あの状況は、フェアじゃなかったから。 …世界が消えちゃうって思ってた時の選択じゃ、フェアじゃない」
「…いや、んなスポーツマンシップに則るよーなモンでもないし…」 なんて軽くツッコミたかったが、俺の口は瑞希の指にふさがれていた。
瑞希は、かりんの方を見た。 『ビクンッ』と、かりんが背筋を伸ばすのを見て、そっと微笑む。
「…だからね。 世界が完成した後なら、フェアな勝負が出来ると思って。 神瞳さんと私の、功司君を賭けた勝負…。
それは、今の状況じゃスゴク負けてるけど……でも、可能性はゼロじゃないから。 …だったら、諦められないから…」
「あーーっ、ズルイですよ、春日先輩！ そんな、二人の一騎打ちみたいに言われてもっ！
はいはーいっ！！ 私！ 私も、その勝負に立候補しますっ！！ 私だって、ものすごーー…く、お兄様が大好きなんですからっ！！」
『シュタタッ』っと、手を上げる、静乃。 瑞希が微笑み、頷いた。
「うん…そうだったね。 じゃあ、取り合えず…二人で同盟。 一番の強敵にどうやって勝つか…二人で頑張ろうね？」
「はいっ！ 相手がかりん先輩でも、二対一なら、少しくらいは勝負になりますよっ。
一緒にがんばりましょーーっ！」
「おーっ！」 「…おー」と、再び瑞希と静乃がハイタッチ。 …またもや、そのノリに付いていけない俺と、かりんが顔を見合わせる。
かりんは赤く染めた顔を、困った表情に変える。 どうした物かと、俺と二人を交互に見つめていた。
俺は、『打倒かりん』に燃える二人に、軽くため息。 そして首を振って言った。
「…ナルホド。 二人が何でココに来たのか、理解したよ。
でも悪いな…。 やっぱ俺、今んトコ、かりんちゃんのコトしか考えられないし…。 二人には、また…なんつーのか、悲しい想いをさせる前に……」
…上手い言葉が思い浮かばない。 これ以上、二人を悲しませないためにも、出来れば帰って欲しいのだが…どう説得していいのやら、サッパリ思いつかない。
言葉が出なくて困っていると、またもや瑞希が俺の口に指を当てた。 そして笑う。
「…うん、だから分かってるよ。 勝ち目なんて、ホトンド無いってね。
それに…ココに残ったら、二人に迷惑かなって思わないでもないけど…」
「そーですね。 だからコレは、私達のワガママです。
お兄様だって、ワガママを言ってこの世界にいるんですし。 私達のワガママくらい、大目に見てくれますよねぇ？」
ニッコリと、罪の無い笑顔を浮かべる、静乃。 …モノスゴク痛いトコロを突かれた気がした。
確かに俺は、自分のコトしか考えずに…単なるワガママを貫き通してココにいる。 そんな俺に、二人を責める権利なんて無かった。
笑顔でコッチを見る二人に、「…ヤレヤレ」と苦笑する。
「…わーったよ。 そう言われちゃ、コッチからは何も言えない。
えーと…かりんちゃんも、それで良いか？」
「…は、はいっ！？ …え、ええ、モチロン、私も立候補します！
す、スポーツマンシップに則り、お二人と正々堂々と戦うコトを誓いますっ！！」
慌てて立ち上がって、かりんが言った。 そして背筋を伸ばし、深々と二人に向かって頭を下げた。
突然の選手宣誓に、ペースを掴んでいた瑞希と静乃も、サスガに驚いたようだ。 ポカンと、頭を下げるかりんを見つめていた。
かりんは顔を上げ、唖然と見守る俺達を見て、「…あ、あれ…？」と、真っ赤な顔で首を傾げる。 そして、不安そうな顔で言った。
「……わ、私…何か、間違えましたか？」
それは、戦いの中の凛々しさなどなく。 まるで小動物の様なかりんに、俺達は顔を合わせて吹き出した。
「…ふふっ。 間違ってないよ、神瞳さん。 お互い…正々堂々、頑張ろうね」
「はい、ガンバリましょー。
でも、負けませんよー、かりん先輩。 お兄様が欲しくば、私達を倒してみよー…ですね」
そう言って、二人でかりんの手を取った。 「えっ…そ、そんな…ま、牧村さんが欲しいだなん……って、あ、あの…欲しいって、どう言う意味で…？」 なんて、相変わらず真っ赤な、かりん。
それにしても…俺を取り合うなんて、みんな物好きだと思った。 俺には、そんな魅力があるとは思えない。
だけど…魅力が無いなら、これから作らないといけない。 朝、かりんに言ったんだ。 かりんに相応しい男になるように頑張るって。
取り合えず、愛想を尽かされないように頑張ろう…。 そう心に決め、三人が握手を交わすその光景を、苦笑と共に見守った。
「で、では、怪物との戦いに話を戻しましょう！」
『パンッ』と手を叩き、かりんが仕切り直した。 顔がまだ赤いので、カンペキに切り替わったワケではないだろうけど。
俺としても、戦いの話の方がイロイロと助かるので、頷いた。 そして、言わなきゃならない事があるのを思い出し、俺も『ポン』と手を叩く。
「…おお、そーだ。 かりんちゃん、そー言えばあの怪獣だけどな。
あいつ、肉片を吹っ飛ばすと、その大きさで復活するみたいだぞ？」
「えっ、本当ですか？
…あっ、そう言えば、牧村さんの背後に現れた小さな怪物は…なるほど。 あれは、吹き飛ばした頭が再生したモノなんですね…」
かりんは一人で答えを出していた。 戦いに関しては、ホント話が早い。 説明ベタな俺としては助かる。
「ああ、そーゆーコトだ。 吹っ飛んだ頭は、その大きさで怪獣になってたよ。
んで、それが半分になれば、二匹のチッコイ怪獣になるんだ」
「…そうですか、それは厄介ですね。
一体、どれほど小さく砕けば、復活出来なくなるのか…まず、そこが問題ですね」
「えっとですね…取り合えず、コレくらいは小さくなるようですよ？」
そう言って、ゴソゴソとポケットを探る、静乃。 「ほら」と取り出したのは……あの怪獣だった。
「シギャーッ」
…なんて、迫力のカケラもない叫び声を上げる。 静乃の手の平に乗るサイズは、体長５センチほどしかなかった。
「…ち、チッコイ……つーか、こんなん持って来たのか？」
指でツンツンと突付きながら俺が訊ねると、「はい。 なんか可愛くて」と、静乃が笑う。
…女の子の『可愛い』基準が、俺には良く分からない。 どこをどう見ても、可愛い要素が一つもないんだが…この怪獣。
かりんも俺と同意見なのか、小さな怪獣を見ても微笑んだりはしない。 むしろ怖い顔で、「うーん…」と唸った。
「それにしても…ここまで小さくても復活するとは、凄いですね。
静乃ちゃん。 どこまで復活するか、少し試しても良い？」
静乃と、一応俺の方にも断り、かりんが実験を試みる。 一体、どれほどの大きさまで分解すれば、コイツは消えるのか。
そして、その結果……。
「……うわー、スゴイ。 取り合えず、５ミリくらいまではオッケーのようですねー」
静乃の手の平で「シギャー」と喚くのは、１０匹ホドの怪獣たち。
…まあ５ミリでは、怪獣かどうか判断できないが。 それっぽいのが、チョコチョコ動いてるのが分かる程度だ。
かりんは、「…ふぅ」と息を吐く。 手加減して槍を放つのが疲れたのか、この怪獣の無節操さに呆れたのか。 …あるいはその両方か。
首を振って口を開いた。
「…この大きさでも復活するとなると、私の槍での退治は難しいですね。
倒したように見えてもその実、分解しただけでは……いずれ集まって、復活する可能性もあります」
「…さすがは牧村さん。 私には退治不可能な怪物を生み出したワケですね…」と、俺贔屓なかりんは、こんな時でも俺への誉め言葉を忘れなかった。
小さな怪獣を、「あー、かわいー」と、爪の先でイジリ回す、静乃と瑞希。
…やはり、『可愛い』の基準が分からないなぁ…なんてコトを考えつつ、その光景を見守っていると、ふと思い出した。
「…あれ？ でも、俺の必殺技で吹き飛ばしたヤツは、復活しなかったぜ？」
「あっ、本当ですか？ 必殺技と言うと、あの……カメハメハ大王の？」
「…まあ、大王じゃないけど……ソレな。
それだと、霧みたくなって消えたから」
「なるほど、そうですか…」と、考え込む戦いのプロ、かりん。 少し考えて口を開く。
「…では、その小さな怪獣に、必殺技を使ってもらえますか？
それで消えれば、牧村さんなら倒せる…と、言う事になります」
「おっ、そーだな。 んじゃ、チョットやってみるな」
静乃に、怪獣を地面に下ろさせる。 「シギャー、シギャー」と喚く、チッコイ怪獣ｘ１０。
そして俺は、腕を引き絞り、体中の気だか何だかを腕に集め………ようとする前に、口を開いた。
「……あ、あのさ。 そんなにジックリ見られると、やり辛いとゆーのか、恥ずかしいとゆーのか……」
正座しながらコッチを凝視してたりする、三人に言った。 …こんな中で、あの恥ずかしい必殺技をやるのは…ある意味、羞恥プレイと言うヤツだと思う。
俺の気持ちを分かってくれたのだろう。 かりんは慌てたように口を開いた。
「あっ、そうですよね！ 何と言っても、牧村さんの必殺技です。
他人に見られて、弱点を解析されたりしたら、お嫌ですよね」
「……分かってくれてなかったか…。 つーかまあ、弱点は早くも判明したけどな…」
…トニカク恥ずかしい所が、この技の弱点だ。 それはもう、致命的な弱点だった。
だけど、恥ずかしがっている場合でもない。 みんなに見てもらわないと、チャンと怪獣が消えるかどうか分からないのだ。
俺は首を振り、諦めたように言った。
「…いや、やっぱイイよ。 このままやるから、チャンと怪獣が消えるか見といてくれ…」
気を取り直して、もう一度構え直す。 …アソコで見てるのは、木だ…木が三本だ……なんて自己暗示をかけながら、ゆっくり腕を引き絞る。
「…かー…めー…はー…めー…………はっ！！！」
掛け声と共に腕を突き出すと、チャンと必殺技が飛び出した。 光の帯は誤る事無く、小さな怪獣がいた地面を撫でる。
『ジュゥ…』と、その下の石が焦げる音。 …石には傷一つついてないトコロを見ると、やはり破壊力はパンチ程度。 必殺とは言いがたい。
だけど、やはり俺贔屓のかりん。 呆れるコトもなく、その焦げた石を見て驚いたように言った。
「す、凄い……消えました！ 消えましたよ、牧村さん！
今のカメハメハ大王で、確かに怪獣が全て消えました！！」
「……だから、大王じゃないんだけどな。
でも、そっか…。 消えたんなら、やったかいがあったよ…」
ジックリ見つめていた、かりんが言うのなら間違いないだろう。 パンチ程度の威力でも、小さくなった怪獣には十分『必殺』になるようだ。
「んじゃ、作戦は決まったな。 かりんちゃんが細切れにして、小さくなった怪獣を俺が消すと。
それで良いか？」
かりんが、コクリと頷く。
「はい、それで良いです。
ではまず、私が敵を小さく砕いてきます。 牧村さん達は、遠くで待機していて下さい」
「…分かった。 ガンバレよ」
一人で行かせるのは嫌だが…さっきの戦いで分かった。 かりんなら、足手まとい（…つまり俺だ）がいなければ、絶対に勝てる。
それに俺には、怪獣を消す後始末って仕事もある。 俺が頑張るとしたらソッチだろう。
「えっとぉ……それじゃ、私達は？」
静乃が、自分の鼻を指差して言った。 かりんは微笑み、首を振る。
「静乃ちゃんの法術は戦力になるけど、もう大丈夫。
敵の戦力も知れたし、もう不覚を取る事は無いと思うから。 お二人も、牧村さんと一緒に待機していて下さい」
「はーい、分かりました」 「…うん、分かった」と、二人も素直に頷く。 かりんの実力を信じているからこそだろう。
「よし……じゃあ、行くか！！」
そう言って、遠くに見える怪獣を睨みつける。 …これから待機するヤツが締めんな……なんてツッコミが来そうだが、チョット決めてみたかったのだ。
だけど、かりんが文句を言うはずもなく。 「はい、参りましょう！」と、大きく頷く。
そして俺達は神社を後にして、怪獣が待つ公園へと走った。
…そして三十分後。
かりんが、「もう安全です」と呼ぶので、俺達も公園へと入った。 そこにはもう、巨大な怪獣の姿は無かった。
だけど……三人で辺りを見回し、何と言って良いか言葉を探す。
「…え、えーと…………が、頑張ったな、かりんちゃん…」
取り合えず、出てきた言葉はソレだった。 「は、はい…え、えっと……申し訳ありません…」と、かりんは言葉どおりに申し訳なさそう。
いや…申し訳ないってコトは無いんだが。 かりんは本当に頑張った。 頑張りすぎて…やり過ぎた感は、無きにしも非ずだが。
巨大な怪獣は、かりんの槍で細切れとなり、公園を埋め尽くすほどの数になっていた。 チョコマカと歩き回る小さな怪獣が、所狭しと溢れている。
「…ま、まあ、小さい方がやっつけやすいよな。 それに安全だし……」
足元に、１０センチほどの怪獣がやってきた。 『ポカポカ』と、俺の足へ攻撃しているようだが…さすがに、１０センチでは、痛くもカユクもない。
「あー、このサイズも可愛いなー」と、その１０センチ怪獣を手の平に載せ、静乃が指でツツいていた。 …やはり可愛いの基準はナゾだった。
…体長、３０メートルほどはあった怪獣。 それが全て、かりんの頑張りにより、３０センチ以下の大きさに細切れにされていた。
３０００センチ割るコトの、３０センチで……最低でも、１００匹。 でも、１０センチ未満の怪獣も居るワケだから、恐らくその倍…いや、３倍以上はいるだろう。
…つまり、あの恥ずかしい必殺技を、３００回以上やるコトになるのか…。 「………はぁ」と、豪快なため息が出た。
「あ、あの…本当に申し訳ありません…。
ここまで小さくする必要など無かったのに…。 私、牧村さんが安全なようにと、それしか考えずに……」
ショボンと落ち込むかりんに、俺は苦笑。 取り合えず、何一つ悪い事をしてない騎士の頭に、ポンと手を乗せた。
「…いーや、謝る必要はないって。 全部、俺の事を考えてやったコトなんだろ？
嬉しいよ。 ありがとな、かりんちゃん」
そう言って頭を撫でると、かりんは少しホッとしたように微笑んだ。
さて…コッチはコレで良いとしても、コッチは…。 数百匹の怪獣を見ていると、頭が痛くなってくる。 やれやれと首を振った。
「……取り合えず、捕まえとくか？ 公園の外に出てったら、探すのが大変だし」
「あっ、そ、そうですね！ それに、一箇所に集めた方が、牧村さんも倒しやすいですよね！」
かりんが慌てて走り出す。 取り合えず俺は…俺の足に噛み付いていた、１０センチの怪獣を摘まみ上げた。
手の中で暴れる怪獣を見て、このサイズじゃ全部捕まえるのは骨だなぁ…と、かりんに見えないようにため息を吐くと、その俺の背後。
『…ザザッ！！』と、誰かの足音がした。
「おーっと、テメェ等、ソコまでだ！！
俺達に隠れて、コソコソコソコソと…ナニ楽しそうなコトしてやがんだっ！？」
『ババーンッ』と、登場したのは、桃太郎とその一味。 四人で、戦隊風なポーズを決めての登場だ。
…なんか、俺以上に恥ずかしいヤツ（等）を見つけて、少し安心したりする。
そしてその後ろから、唯芽、沙夜も顔を出した。 コチラは普通に登場。 俺の姿を見つけると、二人で駆け寄ってきた。
「せ、せんぱーいっ！ お師匠さまもっ！ 怪獣と戦うなら戦うって、言ってクダサイ！
お二人とも、水クサイですぅ！」
「そ、そうだよ、功司君、神瞳さんっ。
こんな危ないコト、二人だけで……って、あれ？ …静乃ちゃんに、春日さんも来てたの？」
「えへへ、お久しぶりです」 「…こんにちは、沙夜さん」と、静乃と瑞希が頭を下げる。 「あっ、うん…こ、こんにちは」と、沙夜も頭を下げ返す。
「…んな時に、ナニのん気にやってんのよ？」
『バサッ』っと、羽ばたく音を立てて、空から瑠羽奈も現れた。 …公園は、イキナリ騒がしくなった。
瑠羽奈は着地し、辺りを見回す。 そして、「……うわっ」なんて言って、イヤな顔をした。
「…大変だろうなーと思って、援軍を連れて来てあげたけど……こりゃまた、想像以上ね。
つーか、なんでこんな大量の怪獣がいんのよ？」
「…うっ、申し訳ありません…」
かりんが小さくなる。 「…ま、まあ、イロイロあったんだって…」と、俺が経緯を説明した。
それを全部聞いて、「ふーん…」と、辺りを見回す瑠羽奈。
「ナルホド、そーゆーワケね。
……でもまあ、やっぱ、ココまで細切れにする必要はナイと思うけど」
「う、ううぅ……も、申し訳アリマセン……」
かりんが更に小さくなった。 …俺も同意見だったりするので、これ以上はフォローの言葉も見つからない。
「で、でも小さい方が、怖くなくて良いですよぉ。 これなら、あたしも手伝えそうです。
ほら。 小さい怪獣は、チョット可愛いですよね？」
５センチほどの怪獣を手の上に乗せ、沙夜が言った。 瑠羽奈も、「…あら、確かに可愛いわね」なんてコトを言う。
…やはり、女の子の『可愛い』はナゾすぎると思った。
辺りを見回し、瑠羽奈は首をすくめる。 でもその後、軽く微笑み口を開いた。
「…まあいっか。 こんだけ人がいれば、捕まえられるだろーし。
んじゃ、ヤロー共！！ さっさと、チッコイ怪獣を全部捕まえちゃってーっ！」
「はーい」 「分かりましたー」 「テメェが仕切んな丹雫！」 …等など。 返事の声は様々だったが、みんな素直に捕まえに行った。
「あっ、みんなコレ！ ビニール袋に入れた方が良いですよ」と、ドコから取り出したかはナゾだが、沙夜がビニール袋を配る。 皆がソレに、怪獣を入れ始める。
俺も沙夜から受け取ったビニールに、小さな怪獣を入れて、ホッと一息。 …どうやらコレで、何とかなりそうだ。
「…ナニ笑ってんのよ？ ほーら、あんたも捕まえなさい。
一匹でも逃がすと、後でまた、大きくならないとも限らないし」
俺の頭を小突いて、瑠羽奈が言った。 俺は首をすくめて口を開く。
「…そーなった時は、またかりんちゃんに任すよ。
俺は捕まえた怪獣を、全部やっつけなきゃいけないんだ。 あの必殺技、メチャクチャ疲れるんだし、少しくらい休ませてくれ」
「…はぁ？ なんで疲れんのよ？ キミのイメージで出す技なんだし、いくら使っても疲れないハズだけど？」
「いや…『気』っぽいモノを手から出すんだし、そりゃ疲れるだろ？」
不思議そうに俺が言うと、瑠羽奈はため息交じりに言った。
「…ナルホド。 キミが自分で、そーゆー制限を作ったワケね。
……まあいっか。 そのほーが、必殺技っぽいし」
「んじゃ、あたしも捕まえに行ってくるねー」と、珍しく労働へ向かう瑠羽奈。
あの瑠羽奈が働いてるんじゃ、俺だけサボるワケにも行かないか。 そう考え、俺も怪獣が集まる方へと向かった。
一番怪獣が多くいた場所。 そこには慌ただしく働く、かりんの姿があった。
両手に抱えたビニール袋の中には、モノスゴイ数の怪獣が入っていた。 サスガに仕事が早い。
「よう、ご苦労さん。 …って、スゲー数だな」
「あっ、はい……本当に申し訳…」
頭を下げようとするかりんを、笑って止めた。
「ああ、いやいや。 今のは、仕事が早いなって誉めたんだよ。
それに、みんなが手伝ってくれるなら、小さい方が安全だし。 丁度良かったと思うよ」
そう言って、辺りを見回す。 そこでは皆、楽しそうに怪獣を捕まえていた。
「あーっ！？ 噛み付きました、この怪獣！」
「あっ、大丈夫？ でもコッチのは大人しいよ。 ほら、喉の下を撫でると、ゴロゴロ言うの」
「……ネコ？」
「おいおい…コッチのは火を吹きやがったぜ！？ 危うくハチマキが、焼きハチマキになるトコロだったぜ！」
「えっ、ホント？ でもそれってさぁ、サンマを焼く時に役に立つと思わない？」
「おお、そう言やそうだな…ナイスアイディーアだぞ、稚晶！」
「つまりぃ、こんだけいれば…一生サンマ、食べ放題っ！？」
「…季節によっては捕れないと思うけど…サンマ」
…等など、そんな会話が聞こえてくる。 その声はナゼか楽しげな物がが多く、文句を言う人は一人もいなかった。
あー…いや。 「あー、めんどくさーい」…なんて、文句を言うサキュバスは約一名いたけど。
必死に怪獣を捕まえる皆を見て、俺は心に暖かいモノを感じた。 『…ギュッ』っと、胸を押さえる。
そしてその想いを…素直に口にしてみた。
「…そっか…そうだよな。 皆にとってはコレは、人事じゃないんだ……やっぱ嬉しいな、そーゆーの…」
「…ん？ はい、何か仰いましたか？」
俺の独り言を、耳の良い騎士が聞きつけた。 かりんが作業の手を止めて、コチラを向く。
俺は微笑んで、かりんの顔を見つめ。 そして言った。
「…この世界は、俺が生み出したのかも知れないけど…。 でも今じゃもう、俺だけの世界じゃないんだな…って、思ってな。
ココにいる皆…学校に避難してた人達にとっても、大切な世界なんだって……そう思ったら、ナンか嬉しくなってさ」
辺りを見回す。 …ココに集まった人達は、自分が住むこの世界を守るために、自らココに足を向けてくれたんだ。
俺の意思なんて関係ない。 皆はもう、自分の意思で動いている。 …それがとても嬉しかった。
微笑む俺を見て、かりんもとても優しい表情を浮かべる。 そして、頷いて言った。
「…そうですね。 次…もし似たようなコトがあったら、皆にも相談しないといけませんね。
この世界の事はもう……私達だけの問題ではなくなりましたから…」
その言葉に、俺は深く頷いた。 そして、かりんと一緒に皆の姿を眺める。
皆を見つめるかりんの瞳は、とても優しかった。
「……あのぉ、お兄様？ この怪獣さん…一匹だけ、飼っちゃダメですかぁ？」
…そんな、何もかもを台無しにするような、静乃の声は……取り合えず、俺もかりんも、聞こえないコトにしといた。
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