＜ はじめに ＞
これは、Ｌの季節の発売、１０周年を記念したＳＳです。 現実界、文化祭の少し前辺りが舞台。
実際、ゲームであった事柄ではないので。 まるっきり、ＩＦの世界だと割り切って読んでクダサイ。
…それでは、どうぞっ！
＜ プロローグ ＞
「…ふぅ、やっと終わったわ…。 んんー………ん？」
放課後の部室。 一人、長い書き物を終えた天羽碧が伸びをすると。 床の上に光る物体を発見した。
「…アレは確か…」 そう呟きながら拾ってみると、それは想像通りの物だった。
「…やっぱり。 これって、七角ペンダント…よね？」
『…チャリ』と、天羽の手の上で音を立てるペンダントは、言葉通りに七角形をしている。
この学校で、七角ペンダントの存在を知らぬ者もいまい。 怪しげな噂が飛び交う、そのペンダント。 指で軽く揺らし、肩をすくめる。
「上岡君が落したのね。
マッタクもう…。 こんな大切なモノ……か、どうかは知らないけど…」
そう言えば、噂だけは聞くが、こうして間近で見るのは初めてだった。 ちょっと興味を引かれる。
右を見て、左を見て…誰も居ないのを確認。 そして、『…落した上岡君が悪いんだからね』と一人ごち、ジックリ観察を始めた。
まず重さ。 思ったよりも軽い。 指で弾くと、『…カーン』と、低く澄んだ音が響いた。
…うん。 音からして、プラスチックではなさそうだ。
次に、透明度はどうだろうと、蛍光灯に透かして見る。 複雑な表面が光を屈折させ、それは美しく輝いていた。
「……ふーん、思ったよりもキレイね。 でもまあ、それほど高価な物じゃなさそうだけど。
…ふふっ。 安物のペンダントなんて、上岡君にピッタリね」
「…言いたい放題ですね」
「ぅきゃあっ！！？？」
誰もいないと思っていた天羽は、背後から聞こえた声に思わず悲鳴を上げる。
『…ドキドキ』と、早鳴る胸を押さえながら振り返ると……そこには、見知った顔があった。
「ゆ、百り……じゃなくて。 ほ、星原…さん？
な、なにしてるのよ、こんな所で？」
「…いえ、そこを通りがかっただけです。
そうしたら、怪しい動きをしている天羽さんが見えたのモノで…気になりまして」
…と、無表情で語ったのは、星原百合だった。 「な、なによ…」と、天羽は口を尖らせる。
「べ、別に、怪しくないわよ。 ただ、ペンダントを見てただけでしょ？」
「…ですがそれは、上岡さんの物です。 勝手に見るのは、どうかと思いますが…」
「勝手に見てるワケじゃないわよ！ そこに落ちてたのを拾っただけっ。
だから、上岡君のペンダントかどうか調べてたんじゃない」
「…ナルホド、そうでしたか…」と、納得したように頷いた後。 少し考える、星原。
「…話は分かりました。 では、そのペンダントを渡して下さい。
私から、上岡さんに返しておきます」
「なんでよっ！？
心配しなくったって、ネコババなんてしないわよっ」
「あっ…いえ。 私が心配しているのは、そうではなく…。
そのペンダントは危険な物です。 あまり長い間、持たない方が良いと思いまして…」
「…キケン？」 そう胡散臭げに言った後、シゲシゲとペンダントを眺める。
ジックリ観察してみたが…やはり天羽には、安物のペンダントにしか見えなかった。 バカにしたように、肩をすくめる。
「…何が危険だって言うのよ？ こんなの、ただのペンダントじゃない」
「いいえ…それは、『只の』ペンダントでは、ありません。 七角ペンダントの噂…天羽さんも、ご存知ですよね？」
「噂……って、持ち主に未来を見通す力を与えるって、ウワサ話のコト？
バカバカしい。 そんなコト、あるワケないじゃない」
バカにしたように、指でペンダントを弾く。 『カーン』と、良い音が響いた。
「…ほら。 中に、なーんにも入って無さそうな、軽い音しかしないじゃない。 只の安物よ」
「ですが、火の無い所にケムリは立たないと言います。
そのペンダントに、超常の力がある可能性も…否定できませんよ？」
「…超常の力って何よ。 こんな安そうなペンダントに、何が出来るって言うの？
こんな…縁日のクジで、ハズレの景品として出てきそうな安物に」
言いたい放題言って、またペンダントを指で弾くと。 『カーン』と、良い音が響いた。
軽い音を聞きながら、少し不安そうな顔をする、星原。
「…あの、天羽さん。 あまり、ペンダントを刺激しない方が…」
「だから、何を心配してるのよ？
こんな物で超常現象を起こせるなら、起こしてみなさいよ。 ほら」
そう言って、もう一度ペンダントを指で弾いた。 『カーン』と、良い音が……今度は響かなかった。
「……ん？」と、天羽がペンダントを見ると。 弾いたはずの人差し指が、中ほどまでペンダントにメリ込んでいた。
「あ、あら……こ、壊れちゃったかしら？」
弾いたせいで、ペンダントに穴が開き。 そこに指が入り込んだのか…と思ったのだが。 よくよく見れば、そうではない。
ペンダントは、最初の形を保ったまま。 天羽の指の方が、ペンダントの中に潜り込んでいた。
「……え？ な、なによこれ…」と、天羽が呟いた…次の瞬間。 指どころか、手首までもがペンダントの中に吸い込まれた。
「…き、きゃーーーーっ！！！？？？
な、なななななな、な、なんなのよ、コレぇっ！！？？」
慌てて、ペンダントごと手を振ったが、それでも手首は吸い込まれたまま。 逆に、どんどんと吸い込む面積を増やしていた。
「ど、どーなってるのよ、コレっ！！？？
…ほ、星原さん！！ あ、あなたが何かしてるのっ！？」
「…いえ、私は何もしていませんが…」
「何もしてないで、なんでこんな事になるのよっ！！？？」
「…さあ？ 私に聞かれても困ります…。
『超常現象を起こせ』と、天羽さんに言われたので……ペンダントが頑張ったのでは？」
「頑張ったってナニよぉっ！！？？」
などと言い争っている間にも、ヒジまでがペンダントの中に吸い込まれていた。
小さなペンダントに、異様な形で吸い込まれている自分の手を見て。 流石の天羽も、恐怖に血の気が引いた。
「…も、もう、原因とかは、どーでも良いからっ！！！
ほ、星原さん！！ と、トニカク、引っ張り出してぇーーっ！！」
「はぁ…でも良いのですか？
折角、天羽さんが望んだ超常現象が起こったの…」
「イイから早くするっ！！！」
切羽詰った天羽の叫びに、「……分かりました」と、頷き。 星原は、天羽の左手を取った。
そして、ペンダントとは逆側に引っ張るが…二人がかりでも、吸い込む力の方が強いらしく。 善戦空しく、肩近くまで吸い込まれていた。
「ち、ちょっとぉ、星原さん！！ も、もう少し頑張れない！？」
「…そう言われても、これが限界です。 この体は、あまり筋力が無いもので…。
力不足でしたら、誰か助けを呼んできましょうか？」
「そ、そんな余裕なんて……ムグゥッ！？」
最後まで言い切るコトも出来ず、ついに頭までもが、ペンダントの中に入り込んでしまった。
しばらく、足をバタつかせていたが、やがてそれも止み…。 天羽の全身は、ペンダントの中へと消え去って行った。
・・・続く